地方自治体の長を決める首長選挙には「首長選挙ならではの闘い方」があります。
同じ「選挙」と言っても、議会議員選挙とはさまざまな点で異なっているのです。
そこで本記事では、村長・町長・市長・知事などの首長選挙について解説します。
議会議員選挙との違いや首長選挙の闘い方などについてまとめてお伝えしますので、ぜひ参考にしてください。
※本記事は、選挙プランナー松田馨氏の著書『地方選挙必勝の手引(増補改訂版)』(2022年9月30日発刊)の内容を、許可を得たうえで使用・引用しております。
首長選挙のポイントは「1人しか当選しないこと」
首長選挙といっても、知事選挙と町村長選挙とではその期間も規模も随分異なります。
それよりも地方議会議員選挙との大きな違いは、まず定数です。
地方自治体の長を決める選挙ですから当然定数は「1」であり、1人しか当選できません。
衆議院小選挙区のような比例復活もありません。
地方議会議員選挙が「定数分の1」の得票で確実に当選できたのに対して、首長選挙は2候補による一騎打ちの構図であれば、最低でも投票者の「2人に1人以上」から得票できなければ当選できないのです。
また、当選に必要な票数は当然のことながら地方議会議員選挙よりも多くなります。
幅広い支持を得るため、首長選挙ではほとんどの方が「無所属」で立候補されます。
同じ地方選挙とはいえ、議会議員の選挙とは全くの別物です。
まずはその点をしっかりと意識しましょう。
首長選挙の当落を左右するのは「構図」
選挙の当落を左右する要素として「知名度」があります。
首長選挙においては、知名度に加えて「構図」が非常に重要です。
構図を決める要素には、以下の3点が挙げられます。
❶ 現職か新人か
❷ 何人が立候補するのか
❸ それぞれの支持政党や団体はどこか
例えば、現職と新人の一騎打ちなのか、現職に対して新人2人が挑む三つ巴なのか、現職の引退に伴う新人乱立の選挙なのか、そしてそれぞれの候補者をどの政党・団体が支援するのかによって構図は大きく変わります。
当然、当選のための戦略も変わってきます。
新人が現職に挑む場合は、できるだけ自分に有利な構図をつくることが重要です。
基本的には現職に対して新人が2人以上立候補すると、現職への批判票が割れてしまい、現職が有利になります。
稀に、保守系の現職と新人の間で票が割れてしまい、革新系の新人が当選する場合もありますが、基本的には2候補による「一騎打ち」の構図が理想的です。
首長選挙では現職が圧倒的に有利
2019年4月に行われた第19回統一地方選挙における現職の再選率は、下の表の通りです。
東京23区の100%という数字に驚かされますが、知事選挙や政令指定都市の市長選挙は、対象となる有権者数が非常に多く選挙運動期間も長いことから、無所属の新人が立候補しにくいという現実があります。
そのため、現職の2期目・3期目の選挙などでは有力な対抗馬が立候補せず、共産党と現職の一騎打ちになることも多いため、全体的に再選率が高くなります。
東京23区の区長選挙については、現職が新人に敗れたのは戦後5例(2022年9月末時点)しかありません。
都市住民の関心の低さや都市生活への不満の少なさを背景に、現職が圧倒的な強さを誇っているのです。
東京23区の区長選挙以外の町村長や一般市の市長選挙における現職の再選率は、一見すると比較的低い数字のように見えるかもしれません。
しかし、議会議員選挙とは異なり定数が「1」であることを考えれば、非常に高い再選率と言えるでしょう。
現職がなぜ強いかと言えば、基本的には圧倒的な知名度があるからです。
一度当選してしまえば4年間の任期中に、公務で様々な行事やイベントに出席をすることになりますし、市の広報誌やホームページ等にも露出します。
また様々な許認可等の書類に市長の名前が書かれますし、マスコミに露出する機会も議員とは比べ物になりません。
新人が挑む場合はこのような現実を踏まえて、不利を覆すために積極的に攻めの選挙を行う必要があります。
首長選挙の闘い方
新人が現職に挑む場合と現職が再選を目指す場合では、闘い方が異なります。
それぞれの闘い方について見ていきましょう。
新人の場合|攻める選挙
新人が現職に挑む場合、まずは現状における市政の課題や「なぜ現職ではなく自分なのか」といったことをしっかりと整理し、メッセージを丁寧に組み立てる必要があります。
その場合に、基本となる資料が電話情勢調査による「現職の支持率」です。
よくマスコミが内閣支持率や都知事の支持率などを公開していますが、首長の支持率は基本的な戦略を立てる上で重要な情報になります。
例えば、現職の支持率が60%以上と高い場合は、批判票をまとめても勝てない厳しい選挙になるでしょう。
活動の質を高め、量を増やして知名度を上げられたとしても、現職の支持率が高い場合はあと一歩届かないことがあります。
自分自身の知名度を高めるとともに、現職の支持率を下げるような情報発信も必要です。
各種の統計データから人口流出や財政赤字、実質公債費比率などの数字を分析し、現職の失政を事実に基づいて批判するキャンペーンも企画しましょう。
その際、批判の仕方を間違えると、それらは自分にブーメランとなって戻ってきます。
事実に基づいて有権者が納得するような分かりやすい説明を心がけ、現職の個人攻撃ではなく、地域の現状を憂いているという危機感をアピールするなどの工夫が必要です。
例えば「人口流出が止まらない。この4年間で◯◯人が流出してしまった。まちの未来のために、今こそ変えなければ!」といった表現であれば、暗に現職を批判していますが、個人攻撃にはなっていません。
「この人口流出は市長の無策が原因だ」と言ってしまうと市長への個人攻撃となり、特に女性から嫌がられる可能性があります。
この辺りの攻撃的な表現については地域性もあります。
維新の会とそれ以外の政党が激しく争っている大阪や、激しい選挙戦が行われる沖縄を除き、基本的には相手を批判するキャンペーンは女性票が離れていくため、細心の注意が必要です。
現職の支持率が50%台前半かそれよりも低い場合は、すでに有権者の心が現職から離れつつある情勢と考えられます。
あえて現職を批判するリスクを負わなくとも、現職にかわる魅力的な新人であることをアピールすれば、批判票の受け皿になれる可能性が高いと言えます。
ただし、そもそも現職には圧倒的な知名度がありますので、その差を埋めるためには相当の活動が必要です。
また、予算の編成権・提案権を持つ首長を目指すわけですから、政策集は市政全般をある程度網羅し、期限や財源を明記したものを作成しなければ「政策がない」といった批判を受けることもあります。
新人でこれから首長選挙への立候補を検討されている方は、28歳の若さで初当選した全国最年少市長(当時)、大阪府四條畷市の東修平市長のロングインタビューを読んでみてください。
当選するために彼がどのような準備をし、どのような活動をしたのか、詳細に書かれていますので参考になると思います。
現職の場合|守る選挙
現職が再選を目指す場合は、現職の強みを活かして闘うことになります。
知名度で勝っているという優位を活かして、任期中の実績をしっかりと訴え、次の4年間で何を実現するのかを丁寧に有権者に訴えていくのが王道であり、かつ最も当選しやすい選挙のやり方と言えるでしょう。
現職の方をお手伝いすると、4年前の選挙時点から後援会名簿を一切メンテナンスしていないという方が度々いらっしゃいます。
再選を考えるなら、せめて年に1回は活動報告を送るなど、後援会名簿のメンテナンスはしておきましょう。
仮に新人候補が自身への批判をしてきたとしても、感情的になって言い返したり、新人候補の批判や悪口を言ったりするような行動は慎んでください。
もちろん、事実無根の誹謗中傷を受けた場合は、否定や反論をする必要があります。
ですが、現職が新人の批判をするのは非常に印象が悪いので注意してください。
また、早めに立候補表明をするのも再選確率を高める一つの戦術です。
選挙期日の1年ほど前を目安に立候補を表明した上で、政党や各種団体等に推薦依頼を出して構図を固めてしまうのです。
早めに政党や団体の推薦を固められてしまうと、新人は立候補しづらくなります。
道義上の問題は別として戦略的には有効です。
都合の良い「争点」がなくても勝てる戦略を!
首長選挙においては、マスコミも「市長選挙の争点は」と報じますので、選挙の現場でも「争点をつくろう」と言われることが多いです。
しかし、基本的には難しいと考えてください。
1つの課題や政策についての「賛否」が分かれれば「争点」となりますが、相手にとって不利な課題を争点化しようとしても、大抵はぼかされてしまうからです。
私が最初に関わった2006年7月の滋賀県知事選挙では、現職が強引に新幹線新駅の設置を進めようとしていたため、都合の良い争点ができ、奇跡的に勝つことができました。
しかし、その後の選挙では争点を潰されたりぼかされたりすることが多々ありました。
例えば、庁舎の移転新築が問題になっていたとしても、有権者に不評とみれば、現職は「市民の意見を聞き、選挙後に判断する」などと言って争点化を避けようとします。
それを「争点隠しだ!」と批判をしても票にはなりません。
頭を切り替えましょう。
争点をつくるべく仕掛けていくことも大切です。
しかし、相手も必死ですから自分たちに都合のいい争点はそう簡単にはできません。
その時々の状況によって異なりますが、私は都合のいい「争点」がなくても勝てる戦略を組むように心がけています。
選挙情勢調査も活用して戦略を立てよう
首長選挙において戦略を立てるには、電話情勢調査やネット調査の実施も有効です。
単なる知名度や支持率だけでなく、「重視する政策」や「(マスコミが報じる)争点への賛否」等を質問文に入れ込み、地域別(投票区や学校区単位)で集計しましょう。
地域別集計の結果をもとに街宣計画などを最適化していくのが効果的です。
私が代表を務める「(株)ダイアログ」でも選挙に特化した情勢調査サービスを提供していますが、調査を元にした分析結果が的中したのを見たある政治家の方から「合法的なカンニングですね」と言われたことがあります。
もちろん一定の費用はかかります。
しかし、質問設計やサンプリングを正しく実施し、詳細に分析した結果をもとに戦略を立てれば、必ず当選確率を高められるのです。
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