「選挙にはいくらお金がかかりますか?」
この仕事をしていてよく聞かれる質問の1つですが、残念ながら即答はできません。
なぜかと言うと、選挙にかかる費用は選挙区や情勢によって大きく変動するからです。
人口が5万人の市と40万人の市では、有権者数も世帯数も違います。
何より、当選に必要な票数が違います。
基本的に当選に必要な票数が多ければ多いほど、費用もかかると考えてください。
ですから、一般的な市区町村議会議員選挙よりも、都道府県議会議員選挙の方が当選に必要な票数が多く、それに伴って費用もかかります。
では一体何に費用が必要なのでしょうか。
本記事では「選挙にかかる費用」のほか、「費用を抑えるポイント」や「費用を抑えるときの注意点」もあわせてお伝えします。
なお本記事では、人口10万人程度の自治体の市議会議員選挙の場合(定数25・当選ラインは1,000票程度)を例にご説明します。
※本記事は、選挙プランナー松田馨氏の著書『地方選挙必勝の手引(増補改訂版)』(2022年9月30日発刊)の内容を、許可を得たうえで使用・引用しております。
選挙にかかる費用の詳細
選挙ではどのようなものに費用が必要なのでしょうか。
ここでは8つにわけてお伝えします。
供託金
市議会議員選挙の場合、供託金として30万円が必要です。
供託金は「供託金没収点」を超えれば返還されます。
供託金没収点の計算も選挙の種類によって異なります。
市議会議員選挙の場合は、
供託金没収点=有効投票総数÷議員定数÷10
で求められるため、仮に有効投票総数が40,000票で定数が25だった場合は、160票となります。
当選を目指して活動していれば、市議会議員選挙で供託金を没収されることはまずありませんが、立候補届出前に30万円を預けなければならないため、選挙資金としては使えません。
印刷物にかかる費用
一番費用がかかるのが、名刺やビラ、ポスターなどの印刷物にかかる費用です。
選挙は知名度を上げていくことが当選への近道ですから、特に新人の方が立候補し、知名度を上げていくためには繰り返し印刷物を配布したり、掲示したりする必要があります。
こうした印刷物の作成にあたっては、まず写真撮影が必要です。
写真データをもとに、決意文や政策を入れ込んだ後援会リーフレットを作成する場合、プロのデザイナーに依頼すれば当然デザイン費がかかります。
後援会リーフレットを5,000枚印刷すれば、印刷費もかかってきます。
他にも名刺、政策をまとめたビラ、室内用ポスターや政治活動用ポスターなど、知名度を上げるために必要な選挙PRグッズはたくさんあります。
ビラの配布方法についても、新聞折込を活用したりポスティング業者に依頼するなどすれば、そうした配布費用も計上しなければなりません。
事務所関連の費用
地方議会議員選挙では、候補者の自宅を選挙事務所に設定することもありますが、人が集まって打ち合わせをして種々の活動をしていくため、自宅とは別に選挙事務所を借りるのが一般的です。
その場合、事務所を2ヶ月前に構えれば2ヶ月分の家賃が必要になりますので、費用を抑えるために1ヶ月前を目処に事務所を構える方が増えてきました。
賃貸契約にあたっては敷金礼金もかかってきますし、地域によっては駐車場が必須のため家賃とは別に駐車場代が必要な場合もありますので、一定の支出は覚悟してください。
雑費
事務所を開設すれば机や椅子などの什器、コピー機、電話回線やFAXの設置、水道や電気などの費用もかかってきます。
最近はインターネットがないと仕事にならないため、短期でもネット回線やモバイルWi-Fiの契約をする方が増えています。
お茶やお茶菓子代といった雑費や郵送費、ミニ集会などを行う際の会場費も必要になります。
選挙用品
街頭で活動をする際に必要な選挙用品も、新人の方は自分で用意しなければなりません。
街頭演説の際に政治家が使用している大型メガホンを新品で購入すると、機種にもよりますが10万円以上かかります。
出力の大きさ、ワイヤレス対応、防水対応などの機能によって値段は異なりますので、なるべく費用は抑えたいところですが、出力の小さいものを買うと、街頭では周囲の騒音に掻き消されてほとんど声が聞こえません。
大は小を兼ねますので、できるだけ出力の大きいもの(定格出力25W・最大出力40W以上が目安)を推奨します。
街頭でのアイキャッチとなるのぼり旗や、スタッフが着用するイメージカラーのジャンパーやポロシャツ、後援会の立て看板なども必要になります。
ネット選挙
2013年のネット選挙解禁、2016年の18歳選挙権の実現、スマートフォン利用者の増加や、コロナ禍の影響によって、ネット選挙の重要性も年々高まっています。
「ネットだけで勝てる」というのは幻想ですが、各種世論調査でも投票の際にネット上の情報を参考にしている層は確実に増加していますから、ネットでの活動によって50票〜100票は変わります。
接戦となればわずか1票差で当落が入れ替わる地方議会議員選挙において、ネット選挙を無視するのは自殺行為です。
最低限、スマートフォンの表示に対応したホームページを開設しましょう。
また選挙区の特性によりますが、都市部ではSNSやネットでの有料広告の活用も効果があります。
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選挙カー
選挙期間中の7日間に最も活用することになる選挙カー(選挙運動用自動車)。
車両のレンタル、車上看板のデザインと設置、音響設備などがかかります。
自治体によって公費負担制度の有無や金額に差がありますが、基本的に自己負担が発生します。
選挙カーというと「名前の連呼がうるさい」といった批判もありますが、選挙カーでの名前の連呼は集票につながるという社会心理学の調査論文が発表されるなど、選挙カーの有効性が証明されています。
選挙カーを使わないというのも1つの戦術ですが、私は現場経験から、選挙カーを活用した方が集票につながると考えています。
中には選挙カーを一切使用せずに当選されている方もいらっしゃいますが、そうした方々は基本的に政治活動期間において全域にビラをポスティングする、何年も駅頭に立ち続けているなど、圧倒的な活動量がある方々です。
あなたが選挙カーを使用しないのであれば、その分ライバルに差をつけられることになりますので、他の活動でどう補うかを考える必要があります。
人件費
人件費については、告示前の政治活動期間中であれば報酬を支払うことができます。
また、選挙運動をする人に報酬を払ってはいけませんが、例外的に、選挙管理委員会に届出をした車上運動員(いわゆるウグイス嬢やカラスボーイ)や事務員、労務者には一定金額内で報酬を支払うことができます。
もちろん、活動を支えてくれるボランティアの方を数多く集めることができれば、費用を抑えることができます。
選挙にかかる費用の目安
これら公費負担分以外の金額を合計すると、あくまで目安ですが約340万円になります。
これは、人口10万人程度の自治体の市議会議員選挙の場合(定数25・当選ラインは1,000票程度)を例にしたものですので、一つの参考としてお考えください。
当然、実際の選挙では情勢を見て、当選のために印刷物やネット選挙にもっと費用を使われる方もいらっしゃいますし、私のような選挙プランナーを雇用する方もいらっしゃいます。
あなたの選挙区事情にあわせて、何にいくら使うのかを大枠で計算してみてください。
費用を抑えるための6つのポイント
過去の市議会議員選挙では自己資金100万円程度で当選された方もいらっしゃいます。
選挙区や選挙区事情にもよりますが、費用を抑えるためのポイントもご説明します。
1.印刷物の種類は少なく
例えば、政治活動期間中は後援会リーフレットと名刺だけを作成すれば、費用を抑えることができます。
選挙には選挙ポスターや選挙運動用ビラが必要になりますが、多くの自治体で公費負担という制度を活用することができます。
これは、選挙ポスターや選挙運動用ビラの制作費を自治体が負担するという制度で、候補者の負担はほぼありません。
公費負担制度の有無と上限金額については、自治体の選挙管理委員会に確認しましょう。
また、フォトグラファーやデザイナーの友人にボランティアで手伝ってもらえれば、撮影費や制作費も抑えることができます。
ただ、印刷枚数については注意が必要です。
増刷すると印刷単価が高くつきますので、1,000枚を2回印刷するよりも、2,000枚を1回で印刷する方が安くなります。
配布枚数の目標を立てて、多少は余る程度の枚数を発注した方が良いでしょう。
2.選挙事務所は自宅
公職選挙法上、自宅を選挙事務所として届け出ることに規制はありません。
家族の理解と協力が前提ですが、選挙事務所を自宅にすれば費用を抑えることができます。
ただし賃貸の場合は、一時的であれ事務所利用が可能かどうかを事前に確認しておくことをおすすめします。
3.選挙用品は借りる
現職政治家の友人知人がいて、選挙期間があなたの選挙とは大きく外れている場合であれば、大型メガホンを借りるなどして費用を抑えることができる場合もあります。
イメージカラーが同じであればジャンパーやポロシャツ、のぼりなどを借りている陣営もあります。
4.ホームページは知人に頼む
最近では無料でスマートフォンに対応したホームページを作成できるサービスがあります。
広告が入るなどのデメリットもありますが、詳しい友人がいれば、ボランティアで作成してもらうことで費用を抑えることができます。
5.選挙カーは使わない
選挙期間中、選挙カーを使わなければ大きく費用を抑えることができます。
ただし、戸別訪問はできませんので、人通りの多いところに立ち続けたり、自転車を活用したりするなど、選挙運動に工夫が必要です。
6.スタッフは全員ボランティア
あなたの候補者としての魅力次第ですが、政治活動期間中の活動を支えてくれるスタッフ、選挙期間中の車上運動員や事務員なども全てボランティアでお願いすることができれば、大幅に人件費を抑えることができます。
選挙費用を抑えるときの注意点
このようにポイントはいくつかありますが、選挙費用を抑えるために、候補者がホームページの作り方を勉強するようになったら本末転倒です。
そんな時間があったら街頭へ出て、一人でも多くの有権者に直接会って、顔と名前を覚えていただく活動に費やしましょう。
プロへ外注すると費用はかかりますが、候補者やスタッフの時間を節約できますし、自分たちで作成するよりもクオリティの高いものが手に入ります。
また、選挙は何が起こるかわかりません。
1票差は稀ですが、地方議会議員選挙では数票差で当落が分かれたケースは度々あります。
万が一、あなたが選挙カーを使用しなかったことで30万円を節約し、5票差で負けたらどうでしょう。
ビラの配布を1回少なくして20万円を節約し、3票差で負けたらどうでしょうか。
あなたの大切な選挙費用ですから、できるだけ無駄なことに遣わないように節約するのは大切なことです。
しかし、もしわずかな差で落選した時に、後悔しないかどうかもよく考えてみてください。
自己資金以外で選挙費用を増やすためには、個人献金を募るのも一つの方法です。
個人献金やネット献金については、第2章と第3章で説明します。