選挙期間中に候補者の名前を連呼する「選挙カー」。
若い世代からはあまり評価されていないようですが、有権者の投票行動に影響を与える効果があることがわかっています。
選挙カーを使うことによって名前を覚えてもらうことはもちろん、有権者に良い印象を持ってもらうことも可能です。
本記事では、街頭宣伝活動の要である選挙カーの運行において、特に注意する点をまとめて解説します。
選挙カーを運行させるルートや選挙カーに準備するもの、運動員らの心得などを具体的にお伝えしますので、ぜひご覧ください。
※本記事は、選挙プランナー松田馨氏の著書『地方選挙必勝の手引(増補改訂版)』(2022年9月30日発刊)の内容を、許可を得たうえで使用・引用しております。
選挙カーは公職選挙法と道路交通法の遵守が必須!適用除外も知っておこう
公職選挙法によると選挙カーの乗車人数は、
- 候補者
- 運転手
- 腕章を着けた車上運動員 4 人
の計 6 人までと制限されています。
7 人乗りの車を選挙カーに使用したとしても、合計で 6 人までしか乗車できません。
4 人乗りの軽自動車などを選挙カーに使用した場合は、その車の乗車定員が優先され、4 人までしか乗れませんのでご注意ください。
また、選挙カーについては以下のような道路交通法の適用除外があります。
【シートベルト着用の義務の免除】
選挙カーに乗車する候補者及び運動員は、シートベルトの装着義務が免除されます。ただし運転手が運動員でない場合は、この運転手のシートベルト装着義務は免除されません。
【通行禁止場所の一部免除】
選挙カーは「車両通行止め」や「歩行者専用」などの車両の通行規制が行われている道路であっても、規制対象から除外されているため通行することはできます。ただし「一方通行」は除外されません。
【駐車禁止場所の一部免除】
選挙カーは指定の駐車禁止場所での駐車規制から除外されています。ただし、交差点やバス停などからの法定距離以内の駐停車禁止場所での駐車は除外されていません。
詳しくは選挙管理委員会にて、都道府県の「道路交通法施行細則の規定」などを確認してください。
選挙カーに乗る運転手や車上運動員のシフトを組もう
選挙カーを運行させる前に、運転手と車上運動員のシフトを組みましょう。
シフトを組む場合は2 交代か 3 交代にするのが一般的ですが、1 日中交代なしで走る場合もあります。
以下のようなシフト表を作成すると良いでしょう。
サンプルのシフト表は 6 人用ですが、基本は「候補者・運転手・車上運動員 2 名」の合計 4 名が最小構成になります。
選挙カーの運行は予定通りにいかないことも多いので、選挙事務所との連絡係を1名決めておきましょう。
最近では SNS用の写真や動画を撮影し、リアルタイムで配信をするためのネット選挙要員を同乗させる場合もあります。
午前と午後のシフトの間に運転手を交代させ、候補者が昼食休憩を取る間は、車上運動員だけで 30 分〜 1 時間走らせます。
いわゆる「から回し」です。
運行ルートによっては、車上運動員の交代のために送迎が発生する場合もあります。
運転手や車上運動員には、なるべく交代が少ない方をお願いしましょう。
地方議会選挙ではあまり活用しませんが、地域に詳しい人に道案内をお願いする先導車や、街頭演説時のビラ配り要員や車上運動員の交代要員を乗せた後続車を活用する場合は、そちらもあわせてシフト表に書き込むようにしましょう。
3つのポイントを押さえて綿密な運行ルートを作ろう
街頭宣伝のスケジュールを計画する際、事前にできるだけ細かい選挙カーの運行ルートを組むことをおすすめします。
その上で、予定通り回れたのかを把握することも重要です。
最低でも、市の全域の地図に実際に回ったルートや街頭演説を行った場所などを毎日書き加えて、日々ルートを修正していきましょう。
GPSを活用する方法もあります。
運航ルートを組む際のポイントは以下の3点です。
- 毎日同じ道を同じ時間帯に通らない
- できるだけ右折をしない
- トイレ休憩を必ず取る
それぞれ解説します。
毎日同じ道を同じ時間帯に通らない
事務所周辺は別として、できるだけ同じ道を同じ時間帯に通らないようにしましょう。
車体のサイズにもよりますが、できるだけ細い道、集落の奥まで入って1軒1軒に声を届けられると効果的です。
また、薄暗くなってきたら早めに看板の照明をつけましょう。
照明は20時以降も点灯したままにできます。
できるだけ右折をしない
選挙カーの運行ルートは、大通りなどで右折をすることがないように組んでください。
選挙カーが右折しようとして後ろに渋滞ができると、非常に印象が悪くなるからです。
トイレ休憩を必ず取る
トイレ休憩は2〜3時間おきにとるようにしましょう。
駅頭、コンビニ、公園などを活用するのが一般的ですが、あらかじめ支援者にお願いしてご自宅のお手洗いを借りる場合もあります。
選挙カーの準備物は?チェックリストも活用しよう
選挙カーには、
- 選挙運動用自動車・船舶表示板
- 選挙運動用拡声機表示板
を必ず載せておかなければなりません。
また、街頭演説を行うために「街頭演説用標旗」と、拡声器やのぼり旗も一緒に積み込んでおきましょう。
細かい点ですが、拡声器に「選挙運動用拡声機表示板」をつけておき、その拡声器を選挙カーに積み込んでおけば毎回取り外す必要がないのでおすすめです。
街宣スケジュールや運行ルート、車上運動員用の台本も必須です。
台本は運転席や助手席の後ろに、目線の高さで見やすいように貼るなどの工夫をしてください。
のど飴や飲み物、タオル、雨具、携帯充電用のモバイルバッテリーなども積み込んでおきましょう。
最近では GPS 機能付きの IP 無線機を活用している陣営もあります。
GPS 機能付きの IP 無線機は、連絡が取りやすく、現在地の把握や選挙カーが通った軌跡をパソコンで確認できるので非常に便利です。
「選挙無線機レンタルショップ」など専門でサービスを提供している業者もありますので、こうした機材の活用も検討してみてください。
選挙カーの準備物はたくさんありますので、以下のようにチェックリストを作成しておくのもおすすめです。
候補者は助手席から精一杯活動しよう
基本的に候補者は助手席に乗り込んで活動します。
シートベルトをする必要はありませんので、精一杯活動しましょう。
具体的には以下のような活動が効果的です。
- 助手席に乗って窓からアピールする
- 候補者もマイクを持つ
- 握手をするため積極的に選挙カーを降りる
ひとつずつ見ていきましょう。
助手席に乗って窓からアピールする
選挙カーで最も視線が集まるのが候補者の乗る助手席です。
常に自分が見られている意識を持って乗車しましょう。
通行人一人ひとりに目線を送って、元気いっぱいに手を振るのが基本です。
助手席での居眠りは厳禁です。
強い眠気があるときはトイレ休憩を挟むなどしましょう。
また、窓から身体を大きく乗り出す、いわゆる「箱乗り」は違反に問われる可能性がありますのでご注意ください。
候補者もマイクを持つ
街宣アナウンスの際には、1回あたりの時間は短くて良いので、候補者も細かくマイクを持ちましょう。
地盤とする地域や団地など低速で運行する際は、短いフレーズで名前と本人が来ていることを印象付けるのが効果的です。
信号待ちで車が止まったタイミングには、1分程度の街頭演説のつもりで車内から演説をしましょう。
例えば「(地域名)の皆さん、◯◯市議会議員候補の勝田とおるです。新人です。どうか私に一票を託してください。候補者の勝田とおる本人です」といったイメージです。
握手をするため積極的に選挙カーを降りる
候補者は常に周囲をよく見回しておくことが大切です。
手を振っていただいた方を見つけたら、可能な場合は選挙カーを停めてもらいましょう。
車から降りてその方の所まで走って駆け寄り、「ありがとうございます!」と握手を求めるようにしてください。
降りることができない場合は、必ず「ありがとうございます!」と声を出します。
大きく手を振る、少し身を乗り出すなどの工夫で、大きくリアクションをするのがポイントです。
運転技術だけじゃない!運転手が特に注意すべき3点とは
運転手の方には、事前に届出をすることで、 1 日 12,500 円を上限額として公費で日当を支給することもできます。
立候補予定者説明会で配布される資料を確認し、手続きをしておきましょう。
選挙カーの運行には非常に神経を使いますので、運転技術だけでなくこれまでに交通違反などをあまりしていない方が適任です。
タクシーやバスの運転手をされていた方にお願いする場合もあります。
運転手の方に気をつけていただきたいのは、以下の3点です。
- 運行速度と周囲に配慮する
- 車高と車幅を把握する
- 交通マナーを守る
詳しく説明します。
運行速度と周囲に配慮する
運転手の方は、事前に街頭宣伝スケジュールや運行ルートを確認しましょう。
選挙カーは低速での運行が基本になります。
常に周囲を見回し、後ろに渋滞が起きることのないよう注意してください。
渋滞が起きている場合は、選挙カーを左に寄せるなど一時停止して、後続車に先に行ってもらいましょう。
車高と車幅を把握する
選挙カーの上には看板が載っていますので、車高が非常に高くなっています。
車高の高さを失念し、高架下などを通ろうとして立ち往生したり、看板をぶつけて破損したりするトラブルがたびたび起こっています。
車高と車幅を把握し、トラブルのないよう努めてください。
交通マナーを守る
選挙カーの運行は往々にして予定より遅れが出てしまうものです。
個人演説会など遅刻できない予定がある場合は、法定速度内でスピードを出すなど調整しましょう。
ただし、焦ってスピードを出しすぎたり、信号無視をしたりすることがないようにしてください。
また、携帯電話の使用は必ずヘッドセットをつけるなど、ハンズフリー通話ができるようにしましょう。
選挙カーはとにかく目立ちます。
交通違反をすると非常に印象が悪くなりますし、ネット上に違反をさらされるリスクもありますのでご注意ください。
車上運動員には誰が適任?求められる5つの心得も
候補者と並んで選挙カーの主役とも言えるのが車上運動員(ウグイス嬢・カラスボーイ)です。
相性もありますので、特にプロの方にお願いする場合は、候補者との面談を1度は行いましょう。
経験豊富なプロの方は、単に原稿を暗記して宣伝するだけでなく、状況に合わせたアドリブも上手ですし、街頭演説の司会や前振りなども担ってくれます。
そうした業務もお願いできるか確認した上で、シフトについても相談し、事務所側の都合にある程度合わせていただける方を優先してお願いすると良いでしょう。
公職選挙法施行令では、車上運動員への1日の報酬額が15,000円以内と決められています。
それにもかかわらず、選挙の現場では「この地域の相場は30,000円です」などと言われることもあります。
もしここで言われるがままに日当として30,000円を支払う約束をしたら、あなたは運動員買収による選挙違反に問われますので、くれぐれもご注意ください。
定められた上限額を超える費用をウグイス嬢に支払ったとして、候補者と受け取ったウグイス嬢の両方が逮捕された事例も複数あります。
プロに依頼しない場合や、全日程のシフトをプロで埋められない場合は、スタッフの中から有志を募ります。
本人の向き不向きもありますが、これまでに経験のない方でも練習をすれば大丈夫です。
事前にプロの方に指導していただくのも効果的です。
アナウンスの上手い下手も大事ですが、心をこめて一生懸命に訴えることができれば必ず有権者に届きます。
「候補者に当選してほしい」という想いが強い人にやっていただきましょう。
候補者が積極的にマイクを持つ陣営では、手振りだけでマイクを持たない人が乗る場合もあります。
車上運動員には以下のような心得が必要です。
- 台本を事前に読み込む
- 常に車外を見る
- 音量の調節や他候補への配慮も
- どの地域を回っているかを把握する
- 車の向きを意識する
これらについて詳しく見ていきましょう。
台本を事前に読み込む
当然のことですが、車上運動員の方は、事前に街頭アナウンスの台本を読み込んで暗記してください。
台本だけでなく、候補者のプロフィールや訴えている政策についても、後援会リーフレットやホームページを確認し頭に入れておきましょう。
多少原稿を読み間違えたり詰まったりしても問題ありませんが、候補者の名前だけは間違えないように注意してください。
常に車外を見る
車上運動員の方は車内の左側・右側それぞれに座ることになりますので、候補者と同じくらいの緊張感を持ってください。
車内にはアナウンスの台本を持ち込みますが、あくまで確認用です。
目線は常に外に向けましょう。
手を振っていただいたり対向車からクラクションなどで声援を受けたりしたら、必ず「ありがとうございます!」と元気よく応えます。
候補者がマイクを持っている場合は地声で、自分がマイクを持っている場合はアナウンスの途中でも反応するようにしてください。
一方的に宣伝活動をしているのではなく、周辺の皆様から応援をいただいているという雰囲気を伝えることが大切です。
稀に「うるさい!」などのヤジを受けることもありますが、「貴重なご意見ありがとうございます」と笑顔で流すようにしましょう。
音量の調節や他候補への配慮も
学校・病院・診療所などの近くでは、音量を絞るかアナウンスをストップしてください。
パトカー・救急車・消防車などが通行している場合や、葬儀を執り行っている場所、学習塾などの近くもアナウンスをストップするか音量を調整しましょう。
他候補の選挙カーや街頭演説、選挙事務所の前を通るときはアナウンスをストップし、「◯◯候補のご健闘をお祈りします」などの激励をしてその場から離れましょう。
せっかくの宣伝活動が単なる騒音として悪印象にならないよう、細かい配慮をお願いします。
どの地域を回っているかを把握する
アナウンスの冒頭には地域名を入れるのが基本です。
事前に当日の運行ルートを確認し、できるだけ町名や字名、団地名などを把握しましょう。
読み方が特殊な地名もあります。
わからない場合は、その地域の方に前もって確認するかネットで調べるなどしておきましょう。
それでもわからない場合は、無理に地名を入れず「ご町内の皆様」などで対応してください。
車の向きを意識する
選挙カーには前後にスピーカーが設置されていますので、進行方向が変わると声の届く範囲が変わります。
方向の変更にあわせてアナウンスの内容に一区切りをつけるようにしましょう。
その際には「ご声援ありがとうございます」などのお礼で締めると効果的です。
方向変更のタイミングは、マイクの交代のタイミングとしてもおすすめです。
選挙カーから車上運動員がアナウンスする際のシーン別フレーズ例
ここからは車上運動員がアナウンスする際のフレーズ例を、以下の5シーンにわけて紹介します。
- 告示日
- 2日目以降の中盤戦〜後半
- 最終日
- 街頭演説の司会
- 街頭演説の締め
ここで紹介するフレーズを組み合わせて、自分だけのアナウンス台本を作成しましょう。
声に出して読んでみることで、より良い言い回しが浮かびます。
また、アナウンス台本はひと目で読めるような大きな文字で印刷し、選挙カーに持ち込みましょう。
告示日
- ◯◯市議会議員候補の勝田とおる、勝田とおるでございます。
- 本日、◯◯市議会議員選挙に立候補した勝田とおるが、(地区名)の皆様に立候補のごあいさつとご支援のお願いに参りました。
- 勝田とおるは、□□に取り組みます!(政策から主要なものをピックアップ)
- お約束します!勝田とおるは□□を実現します!◯◯市をもっと良くしてまいります!勝田とおるでございます!
- 勝田、勝田、勝田とおるでございます。
2日目以降の中盤戦〜後半
- ◯◯市議会議員候補の勝田とおる、勝田とおるでございます。
- 勝田とおるが、○○(地区名)の皆様に、ご支援のお願いにあがっております。
- どうか、あなたの一票で、勝田とおるを◯◯市議会議員へと押し上げてください!
- 期日前投票もはじまっています。市議会議員には勝田、勝田、勝田とおるをよろしくお願いします。
- ○○日の投票日には、勝田とおるにあなたの一票を託してください。
- 勝田、勝田、勝田とおるでございます
最終日
- 勝田とおるが、皆様に最後の、最後のお願いに参りました。
- 勝田とおる、あと一歩のところまで来ています!
- どうか、◯◯地区の皆様の一票で、勝田とおる、勝たせてください!必ず、◯◯市を変えてまいります!
- 明日の投票日には勝田、勝田、勝田とおるをよろしくお願いいたします。
- 勝田、勝田、勝田とおるでございます。
街頭演説の司会
- (場所名)をご通行中の皆様、こちらは◯◯市議会議員選挙に立候補いたしました勝田とおる、勝田とおるでございます。
- ただ今より、こちらの一角をお借りいたしまして、勝田とおるが、皆様に街頭からのお願いをさせていただきます。しばしの間のご静聴を心よりお願い申し上げます。
街頭演説の締め
- ○○市議会議員候補、勝田とおるより、皆様に必死のお訴えをさせていただきました。
- ご清聴まことにありがとうございました。勝田とおるに、皆様の一票をぜひ、託していただきますよう心からお願いを申し上げます。
- 街頭より大きな音量で大変失礼いたしました。
- 投票日には、勝田とおる、勝田とおるをよろしくお願いいたします。
- ご静聴、ありがとうございました。
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